歯周病の進行は差が大きく、1割の人は重症化してしまう!
同じ民族で、同じ場所に住み、同じようなものを食べていても、歯周病の進み方というものは人によってかなり違うということがわかっています。
発端は、スイスの研究者らがスリランカのお茶農園で働く人達を対象として行った研究です。農民たちには当時歯を磨くという習慣がなく、歯科医師もいませんでした。そこで「歯磨きや治療をしないまま放ったらかしにしておくと、歯周病はどのように進むのか?」ということを調べたのです。全員歯肉炎にはなるのですが、11%の人は放ったらかしにしているにも関わらず、それ以上は進行しませんでした。一方で、1割弱(約8%)の人は重症化し、20代から歯周病の症状が出て、歯が抜け落ち、40代になるとほとんどの歯を失ってしまいました。
歯周病の進行の状況は人によって大きく異なっていたのです。
その後も多くの研究が行われ、先進国でも歯周病患者の10%前後は重症になってしまうことが報告されています。
ED(勃起不全)の人には歯周病が多い
ED(勃起不全)と歯周病の関連が、注目されています。
2012年に「米国泌尿器科学会年次集会」において、発表された報告をご紹介させていただきます。
台北医学大学の研究チームが「EDの男性3万3,000人」と「EDではない男性16万2,000人」を対象に5年間の追跡調査を行ったところによると、EDである人たちに占める慢性歯周炎の人の割合は27%、EDではない人たちに占める慢性歯周炎の人の割合は9%と大きな差があることがわかりました。
もう1件、トルコで行われた研究においてもED患者(30~40歳の男性80名)の53%が「重度慢性歯周炎」でしたが、EDではない人(同82名)では23%で、明らかに少なかったという結果がでています。
陰茎の内部に何らかの原因で、血液がスムーズに流れないと勃起ができなくなります。こうした血行障害を起こす原因には、ストレスなど様々なものがありますが、血管内皮細胞の機能が低下するとEDになりやすいということがわかっています。
歯周病はずっと炎症が続いている状態ですから、血液を通して血管内皮細胞を傷つけている可能性があるのです。
男性の喫煙者は重度の歯周病になりやすい
「喫煙」は歯周病を悪化させるリスク要因の一つです。国立がん研究センターが1164人(男性525人、女性612人)を対象に行った疫学調査で、「男性」は自らタバコを吸う人はもちろん、人の煙を吸う「受動喫煙」でも歯周病のリスクが高まることが明らかになりました。
「男性」で「受動喫煙経験のない非喫煙者」をベースに比較したところ、「喫煙者」は約3.3倍、「過程のみで受動喫煙経験のある非喫煙者」では約3.6倍、重度の歯周病になるリスクが高くなりました。
タバコのニコチンは歯周病を引き起こす歯周病の発育を促進し、その病原性を高めます。受動喫煙での同様のメカニズムで歯周業の悪化に拍車をかけることが推察されます。
この研究では、女性の場合は受動喫煙との間に関連性が認められず、その理由は不明とされています。ただし、受動喫煙は、心筋梗塞やぜんそく、早産などの健康には様々な悪影響を及ぼします。
バージャー病の患者は全員、中等度以上の歯周病!?
バージャー病は、タバコを吸う20代から40代の男性に多い難病で、閉塞性血栓血管炎とも呼ばれ、日本には約1万人の患者がいるとされています。
バージャー病を発症すると、手足の血管が詰まって、炎症が生じて、皮膚に痛みや潰瘍を起こし、放置すれば足が腐ってしまいます。
これまで原因不明とされてきましたバージャー病ですが、東京医科歯科大学の研究グループがバージャー病患者14人を調べたところ、全員が中等度以上の歯周病と診断されました。さらにバージャー病患者の患部から取り出した血管試料の大半から歯周病菌が検出されたのです。正常血管の試料からは歯周病菌は全く検出されませんでした。
この研究によって、バージャー病の原因や悪化には口内の最近、とくに歯周病菌が関わっているという可能性が強くなりました。
歯周病治療で糖尿病も改善!
歯周病と糖尿病には意外にも密接な関係性があるということが明らかになっています。歯周病の人は糖尿病を併発していることが多く、また糖尿病患者は歯周病が重症化しやすいこともわかっています。
「歯周病が悪化すれば糖尿病も悪化する。それならば歯周病を治療すれば糖尿病が改善するのではないか・・・?」そうした内容を明らかにしている研究結果が、いくつか発表されています。
岡山大学大学院で行われた研究もその一つであり、歯周病と2型糖尿病を併発している患者に歯周病の治療(スケーリング+歯周ポケットへの抗菌薬を注入)を実施して、治療前と治療後でHbA1c(血糖値の指標)を比較しました。その結果、治療後にはHbA1cが明らかに改善されていたのです。また血糖値を下げるインスリン(ホルモンの1種)を作りにくくするTN-α(腫瘍壊死因子)も血中濃度も、減少していました。
歯周病はアルツハイマー病を悪化させる
2025年には全国で認知症を患う人の数は700万人を超えると予想され、国内外で様々な研究が進んでいます。
そんな中、名古屋市立大大学院、国立長寿医療研究センター、愛知学院大学によるマウスの実験で、「歯周病はアルツハイマー病を悪化させる」ということが明らかになりました。アルツハイマー病は、認知症のタイプの中でも最も患者数が多く、6割以上を占めています。
実験では、人工的にアルツハイマー病にかからせたマウスを用意し、2つのグループに分けて一方を歯周病菌に感染させ、「アルツハイマー病のみ」のグループと「アルツハイマー病+歯周病」のグループを作りました。両グループのマウスにまず球と三角錐を見せ、うち1つを形の違うものに置き換えて反応を調査しました。その結果、「アルツハイマー病のみ」のグループは新しく置いた物体へ頻繁に近づく行動を見せたのに対し、「アルツハイマー病+歯周病」のグループの反応は変わりませんでした。「歯周病を合併したことで、さらに認知機能が低下し、最初に見た物体の形を忘れ、新しい物体に興味を示さなかった」と考えられています。
歯周病は早期治療で医療費を大幅に削減できる!
急速に高齢化が進む日本では、増大する医療費が問題となっています。各家庭においても老後に向けて医療費支出をどう抑制するかが課題といえるでしょう。
自動車部品のメーカーである「デンソー」の健康保険組合が被保険者の医療費を分析したところ、歯周病にかかっている人はかかっていない人よりも、歯科だけでなく医科(視界外の病気)の1人あたりの医療費も年間15,800円多くかかっていることがわかりました。
60歳以上になるとこの差は3万円前後まで広がっております。実際に歯周病で治療を受けている人の多くが糖尿病にかかっていました。
デンソーの場合、定期的な歯科検診を実施している事業所では医療費が5年間で最大23%も減少したのに対して、実施しなかった事業所では24%も増加していたとのことです。
歯周病の予防や早期発見・治療は生涯にわたる医療費を抑えるポイントと言えそうです。